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今月は

2012年 5月は

ほんとにいい時節になりました。 普通に気持がいいというのもあるんですが、 年とともに、寒いのがようやく終わった、 そして暖かくなったという感じが なんともいいものだと思います。加えて、たらの芽などの山菜や、 たけのこ昆布とかそういう食べものが、 これも年とともに(笑) ほんとに美味しいと思います。 美味しい、心地いい、お休みも多い、言うことなしの月ですね。
金花糖も今月は五月らしく、端午の節句で兜を飾ってお迎えいたします。 メニューもいよいよ冬メニューを抜けて、 合いメニュー、白玉ぜんざい(温)をいたします。 白玉ぜんざいは、金花糖の餡に白玉のつるつる感が好評です。 白玉粉の原料はもち米の粉ですが、粉が精製され粒子が小さくなって、 つるつるの感触になります。 金花糖の白玉は、よく精製された粉で作っていますから、 つるつるがほんとに滑らかで美味しいです。 今月は金花糖で、ぜひ白玉ぜんざいをご賞味くださいね。
では、ホトトギスを詠んだ紀友則の歌です。

おとは山けさこえくれば郭公こずゑはるかに今ぞなくなる
〔音羽山 今朝越えくれば 郭公(ほととぎす) 梢遥かに 今ぞ鳴くなる〕

音羽山 今朝越えて来ると ホトトギス 梢の遥か遠くに 今まさに鳴いているのが聞こえる。
音羽山は、京都の山科にある山です。東国への道にある山でした。 その山を今朝越えてくると、ホトトギスの声が聞こえて、 その声は遥か空から響いたのでした。 響いた音が、遠い空からのように感じる、 それはやはりこの時節の空の響きだろうと思います。
今の時節は、光も音も、 それまでの寒い時節に馴染んできたのと違う感覚を起こすことがあります。 いつもの道が違う雰囲気に見えたり、 何気ない音が違う響きに聞こえたりします。 ホトトギスも、ほんとは何処にいたのかは分からなくて、 空の響きで遥か遠くからと聞こえたのかもしれません。
友則さんは山中で、ホトトギスの時節だという思いともに、 その空から響く音に時節を感じたのだと思います。 「郭公 梢遥かに 今ぞ鳴くなる」、 爽やかな空に響くホトトギスの声、まさに今の空を感じる歌ですね。
次は、山吹を詠んだ肥後の歌です。肥後は平安時代の女房でした。前書きがあります。
堀河天皇の時、肥後の家に素晴らしい山吹があるとお聞きになり、 お取り寄せになりましたので、献上するということで結びつけました

ここのへにやへ山ぶきをうつしてはゐでのかはづの心をぞくむ
〔九重に 八重山吹を 移しては 井出の蛙(かわづ)の 心をぞ汲む〕

宮中に 八重山吹を 移すにつけて 井出の蛙の 心を想像しています。
蛙の心を想像する!! 面白い歌ですね。 井出は、京都の南にある所で、山吹と蛙の名所でした。 その蛙は、鳴き声の美しい 河鹿蛙 のこととも言われています。 でも、「井出の蛙の 心をぞ汲む」、改めてどんな意味かとなると、 ちょっと分からない歌ですね。(笑)
歌の言葉は別にして、山吹を差し上げる肥後さんの気持を考えてみると、 せっかくの山吹を手放すのは寂しい、 でも帝が実際に見られて賞賛されて、 そして大切にしてもらえればそれは名誉なことだと思う、そんな気持ではないでしょうか。 しかし帝に寂しいとかそんなことを言うわけにはいきません。 それで、そういう思いを「井出の蛙の 心をぞ汲む」、 この言葉に込めたのではないでしょうか。 井出の蛙は、いつも山吹と一緒です。蛙の鳴くは、泣くに通じます。
ところで源氏物語に、 手紙は落として他の人に見られても分からないように書くべき、 と書かれている條があります。 逢っていても、逢わない由を書くべきというのです。 この歌の場合はちょっと違いますが、 でも自分の思いを帝にお伝えするだけの歌であっても、 歌はもちろん公になってしまうのです。 肥後さんは、思いをあまり露わにしないように、 敬意を込めた歌にして山吹に結んだのでした。 「九重に 八重山吹を 移しては 井出の蛙の 心をぞ汲む」、 うまいものですね。 帝にも失礼にならず、周りの人も納得の歌だったのではないでしょうか。 そして美しい山吹に蛙の鳴き声が重なって、まさに今の時節もいっぱいに感じさせる歌ですね。
さあ、心地よい春を満喫できる時節です。十分に楽しんで過ごしたいですね。

甘味処 金花糖/石川県金沢市長町 3-8-12/tel 076-221-2087