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今月は

2015年 7月は

今月は梅雨明けですね。 今年は予想は遅めのようですが、どうなんでしょう。
ここ金沢では、梅雨明けはだいたい小学校とか中学の夏休みに入るころになります。 中学生の時に、まあ大昔の話ですが(笑)、ちょうど夏休みに入る前の日に梅雨明けがあって、 なんてタイミングがいいと思ったのを憶えています。 ざあーっと雨が降って、降り止むと青空が見えて、来たのかなと思うと蝉の鳴声が聞こえ出す、 はっきりと分かる梅雨明けだった記憶があります。 今年の梅雨明けはどうなるでしょうか。
金花糖も、今月は夏メニューを始めます。 中頃までは好評のわらび餅を続けまして、 それから折を見て、くずきり、氷の夏のメニューとなります。 くずきりは、吉野本葛を使ったものでほんとに美味しいですよ。 本葛のくずきりは時間が経つと固くなるものですから、 必ずご注文をいただいてから作っています。 少しお時間をいただきますが、くずきり本来の味わいを楽しんでいただけます。 蜜は、黒蜜と抹茶蜜の2種類をお付けしています。 今月は金花糖で、ぜひくずきりをご賞味くださいね。
では、七夕を詠んだ崇徳院の歌です。

たなばたに花ぞめごろもぬぎかせばあか月露のかへすなりけり
〔織女(たなばた)に 花染め衣 脱ぎ貸せば 暁(あかつき)露の 返すなりけり〕

織女に 露草の花で染めた衣を 脱ぎ供えて、貸したのだが 暁に露が 染色を落として返ってきたのだった。
昔は七夕には五色の糸や衣を供えました。 そしてその供えることを、貸すと言いました。 七夕の間、糸や衣を織女に貸すという趣なのでしょう。 「返す」は、染色が取れて色が戻る意と、供えたものを返してもらう意が掛かっています。
崇徳院さんは、露草の青色で染めた衣を織女に貸したわけです。 すると暁、つまり夜明け前の頃に露で濡れ、染色が流れて取れてきたのです。 昔の風習では、男は日が暮れて宵に女のところに行き、 暁に別れて女のもとを去らなくてはなりません。 織女に貸した衣が、別れの暁の時に、涙に濡れたように色が流れ落ちている。 崇徳院さんの詩人の心が動きました。そして、歌が詠まれたのでしょう。

それにしても昔の染色はそんなに落ちやすいものだったのでしょうか。 どうもそれは色によってすごく違った、様々だったようです。 千年以上前の、今でも色が残っている布も伝わっています。 しかし、露草の花で染めた青色は落ち易いものの代名詞でした。 袖で涙を拭いていくと少しずつ色が褪せてくるというものだったようです。
すると、やはり昔は遅れていたなーとか考えがちです。 でも、すでに藍はありましたから、同様な色なら藍でも出せるのです。 でも昔の人は、露草の時期は夏頃だけですから、 その花の色を紙に移して保存して、 必要なときにその紙の色を水に溶かして露草の花色を染めていました。

うない髪1

そんな技術を使っていたのです。昔の人の知恵はすごいですね。
思うに、藍があっても、そこまでして露草の花染めを使ったということは、 色が涙にも落ち易いような、それもその染色の趣として楽しんでいたのでは。 涙で衣の色が落ちてくる、思えば素敵な光景ではないでしょうか。 「織女(たなばた)に 花染め衣 脱ぎ貸せば 暁(あかつき)露の 返すなりけり」、 供えた衣の色が、別れの時に流れ落ちる。 七夕の伝説にふさわしい、ロマンチックな思いのあふれる歌ですね。
次は、曾禰好忠の歌です。

きてみよといもがいへぢにつげやらむわがひとりぬるとこなつの花
〔来て見よと 妹が家路に 告げやらむ 我が一人寝(ぬ)る とこなつの花〕

来て見よと 恋人の家路に 告げに行かせよう。私の一人寝する 床・・・ 常夏(とこなつ)の花。
常夏は、なでしこの古名です。
昔は男女の関係は、男が女の家に行って寝るもので、女を男の家に呼んで寝るというのは普通はないのです。 するとこの歌は、なでしこが美しく咲いたのでそれを口実に恋人を呼んで、 花の話題から、自分は寂しい一人寝をしてるんですがという話題になんとか持ち込もう(笑)、 そして別の日の夜に恋人の家を訪ねよう、 そういう心積もりの歌ではないかとかついつい思ってしまいます。 まあ好きな人と逢うときには、こういうことを喋って、こんな風に話をもって行ってとか、 いろいろ思い浮かぶものですよね。(笑)
でも好忠さんは、純粋に美しいなでしこの花を好きな人と眺めて楽しみたい、 そういう気持ももちろんあったと思います。 そのどちらもみたいな心持ちが、「我が一人寝る とこなつの花」 と微妙な言い回し(笑) になったのではないでしょうか。 そういう心理はたぶん自分でも説明しきれないものです。 歌や詩は、説明ではなくてそれを表わしてくれるものなのでしょう。 「来て見よと 妹が家路に 告げやらむ 我が一人寝る とこなつの花」、 恋人がいることの嬉しさもあるけど、恋のせつなさもあって・・・ そんな恋する人の思いが表れた歌ですね。
さあ、いよいよ夏です。気持も明るくなって元気も出ます。 楽しい夏にしたいですね。

甘味処 金花糖/石川県金沢市長町 3-8-12/tel 076-221-2087