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今月は

2011年 10月は

秋晴れはほんとに気持がいいですね。 同じ晴れでも空の高さが違う、雲が高い、そんな感じがします。 もちろん食べ物も美味しいです。 秋刀魚も出始めはもひとつで、やはり秋が本格的になって美味しくなりました。 しかも安くなって!!(笑) そして夜は虫の音を聞きながら、 夜長をゆっくりと。 10月は小春、ほんとに昼も夜も気持よく過ごせる月ですね。
金花糖も今月は、庭の眺めも落ちついて、秋らしい静かな雰囲気です。 季節メニューも合いで、温かい白玉ぜんざいをいたします。 丹波大納言の餡と、つるつるの白玉を、 ゆっくりとした気分で味わっていただければと思います。 今月は金花糖で、ぜひ白玉ぜんざいをご賞味くださいね。
では、秋を詠んだよみ人しらずの歌です。

春霞かすみていにしかりがねは今ぞなくなる秋ぎりのうへに
〔春霞 霞みて往にし 雁がねは 今ぞ鳴くなる 秋霧の上に〕

春霞に 霞みつつ往ってしまった 雁が まさに今、鳴いているようだ 秋霧の上の方に。
昔は季節感がいっぱいで、季節季節の情景は、 写真もビデオも無いですが、 しっかりと眼に焼き付けていたのだろうと思います。 春のはじめ頃、北に飛んで行く雁も印象的なものでした。 せっかく春になったのに、 春の盛り、満開の花も見ないで往ってしまうのです。 その飛んで行ってしまう雁には、 春霞の中に、まさに霞むように消えていった雁もあったのだと思います。 霞の中に消えてゆく雁、幻想的な情景ですね。
そして、戻ってきた雁の音を秋霧の中に聴いた時、 自然に思い出されるのは、 やはりその霞の中に消えていった雁だったのではないでしょうか。
ちなみに霧と霞ですが、普通にはこれは同じものです。 しかし平安のころに、春は霞、秋は霧という言い方になったようです。 同じ霞でも春と秋、季節による趣の違い、 それを表わしたい思う気持が言葉を分けさせていったのだと思います。
「春霞 霞みて往にし 雁がねは」、 霧の中の雁の音を聞いて春を思い出し、そして秋になったことを改めて思ったのでした。 情景が白く霞んで浮かぶような素敵な歌ですね。
次は、式子内親王の歌です。式子さんは平安末期の女性歌人です。

きりのはもふみわけがたく成りにけりかならず人を待つとなけれど
〔桐の葉も 踏み分け難く 成りにけり 必ず人を 待つとなけれど〕

桐の葉も 踏み分け難く 成ってしまった 必ずしも人を 待つというのではないけれど。
玄関から通ってくる庭に、落ち葉が踏み分け難いほどになった。 通り道が、誰も来ないので落ち葉で埋まってしまったのです。 でも、人を待ってはいない。 待ってないのなら、誰も来ないことを歌に詠まなくてもよさそうなものですが、 でも、誰か人を待っていると言うと、また思いと違うのだと思います。 微妙な心理ですね。
桐の葉というのは、30センチほどもあってとっても大きいです。 中には 50センチ以上のものもあるとか。 そんな葉が積もっていけば、ほんとに踏み分け難くなると思います。 庭は、歩けば足が埋もれるような感じになってたんでしょうね。
式子さんは生涯独身でした。 そして皇女であった式子さんの恋とかについてはいろんな推測があります。 でもそれはそれとして、この歌を読むと浮かぶ言葉があります。 それは小津安二郎監督の映画「東京物語」の中の、 若くして未亡人となったという役柄の、原節子さんの台詞です。
「一日々々が、何事もなく過ぎていくのが、とっても寂しいんです。 どこか心の隅で、何かを待ってるんです。」

「必ず人を 待つとなけれど」、 その思いは、この原節子さんの言葉のようなものだったのかもしれません。 深く埋め込まれたような思いを感じさせる素晴らしい歌ですね。
さあ、秋も盛り。 さつまいもも美味しいですが体重に注意して(笑) いっぱい楽しみたいですね。

甘味処 金花糖/石川県金沢市長町 3-8-12/tel 076-221-2087