バックナンバー

今月は

2020年 6月は

今月は梅雨入りです。 梅雨は昔の五月雨(さみだれ)という言葉でも、季語としては昔も今ももう夏なんですが、 気持ちとしてはやはり梅雨をなんとか抜けてこそ夏という感じです。 それだけ梅雨の過ごし難い感じは特別なのでしょう。
そこで梅雨をどう過ごすかというのは、 昔もあれこれあったようで源氏物語にも、長雨が例年よりも長く続いた年に、 姫君が暑苦しい中で、髪を乱しながら物語に熱中するという場面があります。 たしかに、何かに集中するというのは精神的にはよさそうですね。 今年の梅雨は何かそういう方法で、心を整えて乗り切る、 そんな作戦がいかもです。まあ出来ればですが(笑)
今月の金花糖は、梅雨のすっきりメニューということで、わらび餅をいたします。 わらび粉は、れんこんのでんぷんの物で、きなこは黒豆きなこ、 そして自家製の黒蜜がかかっています。 とっても美味しいわらび餅です。 自家製の黒蜜も、美味しいと評判をいただいています。 特製冷茶付きですから、じめじめ気分にはほんとにぴったりです。 今月は金花糖で、ぜひわらび餅をご賞味くださいね。
では、 梅雨、五月雨(さみだれ)の時節を詠んだ良暹(りょうせん)法師の歌です。

さ月やみはなたちばなにふくかぜはたがさとまでかにほひゆくらん
〔五月闇(さつきやみ) 花橘に 吹く風は 誰(た)が里までか 匂ひ行くらん〕

梅雨空の闇夜 花の咲いた橘(たちばな)に 吹く風は いったい誰の所にまで 匂い行くのだろう。
五月闇は、梅雨の厚い雲に覆われて、月の空も暗く闇夜のようであることを言います。 昔は室内の照明でも、小皿の油に灯心を入れて燃やすというだけで、 それも手紙を読んだり必要な時だけですから、 闇夜となると普通はもうほんとに真っ暗でした。
暗闇では、音や匂いの感覚が冴えて来ます。 加えてこの梅雨どきの湿り気は、香りを含んで留まらせるので、 匂いを長く続かせます。 五月闇はたしかに匂いに感じやすい時なのです。
また橘は、昔から日本にある唯一の柑橘類でした。 その特有の花の香は多くの人に愛されました。 この時節になると、花橘の香りに色んなことを思い出し、 その香りを漂わせていた恋人を思い出す。 花橘は、記憶を蘇らせる香りでもありました。
良暹(りょうせん)さんは、 五月闇に吹く風から橘が心地よく匂ってくる・・・ この風からの匂いは、 誰にどんな記憶を蘇らせ、 どんな思い出に浸らせるのだろう、そんな想像から歌が浮かんだのではないでしょうか。 「五月闇(さつきやみ) 花橘に 吹く風は 誰(た)が里までか 匂ひ行くらん」、 しとしとと雨が降る暗闇に、 匂いの美の世界がさーっと広がって行くような。 この歌は、五月雨の奥深い美の世界ですね。
さあ、初夏の爽やかな時節から、梅雨に入っていきますが、 気持ちはなんとか爽やかなままと行きたいですね。

甘味処 金花糖/石川県金沢市長町 3-8-12/tel 076-221-2087